広島高等裁判所岡山支部 昭和26年(う)541号 判決
岡山県製糸原料移出許可条例が昭和二十三年三月一日公布施行せられ僅かに二年に満たずして翌年十二月二十三日廃止せられたこと、右条例の有効期間中に行われた被告人猪頭、鳥越の本件条例違反の所為につき、原審が右条例の廃止を以て刑の廃止と解し、刑法第六条、刑事訴訟法第三百三十七条を適用し免訴の言渡をしたことは所論の通りである。検事は同条例を以て三椏皮の紙幣製造用としての官需に対する供給を確保するために制定公布せられたもので、若し将来その生産が増加し容易に官需が充たされる状態が到来すれば、当然に廃止せらるべきものであるから、全く臨時緊急の一時的要請に基いて制定せられた限時法規であると主張し同条例違反の本件所為につき免訴の言渡をした原判決を非難するのであるが、同条例は臨時物資需給調整法、物価統制令、食糧管理法等の如く、その法規の名称自体により、或は「本令は終戦後の事態に対処し云々」なる法の目的の宣言により、或は改正ないしは廃止前の旧法規の追及効を規定することによつて、それ等の法規が異常変則な一時的状態に対処するための法規で、異常状態の解消により、早晩廃止せらるべきものであることを明示している場合とは大いに異なり、この種の明文を全然欠いているのは勿論のこと、その法規全体を仔細に検討して見ても検事所論の如き限時法的性格を認め得る片鱗すらも見出し得ないのである。たゞ同条例が公布後二年を出でずして廃止せられていることから判断すれば立法者の意思は検事所論の通りであつたかも知れないがその立法者の意思は成文の上にその片鱗をも現わしていないのであつて全く隠れた意思に過ぎない。かくの如く法規の成文から全然遊離した立法者の意思のみを以つて同条例の性格を決定しこれを限時法規なりと解釈しその追及効を認めることは著しく法の安定性を害するものといわなければならない。一般に限時法を認める根拠として、違反者がその法規の廃止を予測して施行期間の終末に際し、敢えて違反行為を為し、かつ訴訟の遷延によつて、不当に科刑を免れんとするもののあることを挙げ、その取締を強調するのが常であるが、それは法規の明文ないしはその精神から、その廃止の時期が一般に予測可能な場合に限り、本条例の如く一般には事前にその予測困難な場合にまでかかる悪質者のあることを想定し、その追及効を認めるわけには行かない。原審が検事の限時法の主張を排斥し本条例の追及効を否定し、刑法第六条、刑事訴訟法第三百三十七条を適用し、本件条例違反の所為につき、免訴の言渡をしたのは正当であつて検事所論のような違法はない。論旨は理由がない。